僕は課長が嫌いだ。考え方が合理的じゃない。過ちを認めないから、同じ失敗を何回もする。指示通り仕事しないでうまくやると機嫌が悪くなるし、指示通り仕事して失敗しても機嫌が悪くなる。いったい何をやらせたいんだ。もう少し考えて指示をしてくれ。そういう事をいつも思っている。
金曜日、めずらしく仕事の区切りがよく、気楽に週末を迎えられそうだった。仕事のことをあんまり考えなくていい週末は本当に久しぶりな気がする。
いつも、課長に言いつけられた仕事がどうにも進めようがなくてうなっているので、仕事の区切りがつくなんて滅多にないのだ。
「ふぅー」
大きなため息をついた。仕事が終わったのだ。終業時間まであと12分。のんびりとくつろぐにはいい時間だ。コーヒーでも飲もう。
「今日、飲みにでもいくか」
コーヒーをちょうど飲み終わったぐらいで課長に言われた。
課長が飲みに誘ってくるのは珍しくない。正直歓迎もしていないが、不器用な課長なりの気遣いかと思うと断るにも断れない。それに、行けば割り勘よりは多めに払ってくれる。
そうして、僕らは飲みにいくことになった。
同僚たちも誘って全部で5人になった。行く店はいわなくてもわかる。会社のみんなが行ってる行きつけの店がある。
「俺に対して不満も多いだろうから、こういう日には本音を言ってくれてかまわないからな」
なんだかんだいっても、課長も自分が気に入られていないのを感じているのかもしれない。飲みの度にこの言葉を言う。
「僕は、課長はほんとにいい上司だと思いますよ。いつも的確な指示をくれて、すごく仕事やりやすいですから」
本音を言えといわれると、だいたい僕はこういう内容のことを言うようにしている。課長のやりかたが気に入らないなんて、何でも言っていいと言われても簡単に言えるものじゃない。
僕は言葉に出していったことの方が本音なんだと思う。そういう風に考えるようになった。
秘めたる想いといえば聞こえはいいが、秘めていることは結局何にも影響しないのだ。社会的な僕の本音にはなりはしない。
飲みが終わると、課長は一人タクシーで帰っていった。僕は同僚たちと、終電に間に合うように駅へと向かう。
「飲みっていっても、面と向かって文句はいえないよな。本音で話せるのは本人のいないときだけだよな」
同僚は、僕に課長の不満を言い始めた。こういうときに言われる言葉こそ、彼の本音なのだろう。
「僕は、課長はほんとにいい上司だと思うよ。いつも的確な指示をくれて、すごく仕事やりやすいから」
決められた台詞を棒読みするように僕はその同僚に向かって言った。
「おまえ、それ、本気でいってるのか?」
本気で言うって何だろう?僕が彼に言った言葉は、まぎれもなく社会的には僕の意見になるのだ。
僕の言葉はいつも本音だ。